ラボを移った

 ご無沙汰しております。みなさんお元気でしょうか?

 1月の25日だったか。

 ボスに呼ばれ、「グラントが足らず、君の給料が払えなくなりそうだ。もうしわけないが、隣りのラボに移って仕事を続けるのはどうだ。まあ、他に選択枝はないんだが…」との話。えー…。そんなわけで、2月からラボを移ることになった。もともと、最初のラボでは平行して二つのプロジェクトを進めており、一つは移ることになった隣りのラボのマウスと設備を借りて共同研究をしていた。私は隣りのラボの事もよく知っている。

 実は、この話をされたとき、私はあまり驚かなかった。むしろ幸運に感じた。新しいラボではマウスを使った研究をしているのだけど、前のラボではとある非常に下等なモデル生物を使って研究をしており、日本に帰って研究を続けることができたとしても、今のシステムを使えない。これは自分で選んだことだったにせよ、少し後悔と不安を感じていた。前のボスは大御所で良い人物なのだけれど、高齢でdiscussionをしていてもどうも形式的で物足りない。私が来て一人が自国に帰り、ラボのスペースも縮小傾向にあって、リタイアが近そうな雰囲気もある。新しいボスはスマートな人で活力があり教わることも多いだろう。新しい研究テーマも私の興味とそれほどかけ離れていない。これまで悩みながら研究を進めていたところもあったので、ある意味で非常にすがすがしい気分になった。結果的にラボを放り出されたわけだけど、とにかく最初に私を雇ってくれたわけだし、次の勤め先も見つけてくれたので、前のボスには感謝している。移ると言っても同じフロアの位置的にもまさに隣りのラボで、ベンチとオフィスはそのまま使い続けるので大した変わりはない。

 しかしまあ、ポスドクとして働くなど何と心元ないポジションなんだろう、とあらためて実感した。わざわざアメリカの国立公園などへ出かけて行って広大な自然を目の当たりにしたり、満天の星空など眺めなくても、自分の存在がいかに小さいものであるかを思い知らせてくれる。日本で医師免許を持って真面目にさえやっていれば職にあぶれることはない。いつでも日本に帰れば仕事があって怖いものはないのだから、開き直って出来るだけの事をやるべきだ、という精神で自分を奮い立たせている。