患者さんを出来るだけ早く追い出す方法

 私の勤務している整形外科病棟は一応、急性期医療を行うところ…という事になっているらしい。患者には手術のように入院しないと出来ない手間のかかる治療を行うところですと説明する。一日のうち一時間だけ歩く訓練をして、あとはベッドでゴロゴロしているだけのような年寄りにはサッサと退院してもらうか、リハビリ病院や長期療養型の施設に転院してもらうよう促している。

 年寄りが病気になったり怪我をしたりすると、これ幸いとばかりに家族が病院に棄てにやってくる。家にやっかいな介助の要る年寄りが戻ってくるのは面倒くさい事だし、もともと一人暮らしの年寄りを面倒をみるために今さら自分のライフスタイルを変えるというのも億劫。皆がそうだというわけでは無いけれど、黙っているといつまでも年寄りは居心地の良い病院に居つづけるか、介助や介護から開放された家族が居つづけさせようとする傾向。

 外来とか手術とか書類を書いたりするのに加えて、少しでも早く年寄りたちを病棟から追い出すというのも整形外科医の大切な仕事であり、その戦いは外来のファーストコンタクトで入許(入院許可とはいかにもパターナルな趣き)のハンコを押すか押さないかというところから始まる。

1.Uターンあり vs 一人暮らし
 ラッキーなのは近くの老人保健施設精神科病院などで転んで骨折した患者。手術して抜糸が終われば、リハビリもそこそこにもとの施設にすみやかに引き取ってもらえる。その対極にあるのが独居老人。入院したと同時に地域医療連携室に依頼して、転院先のリハビリ病院を検索する。介護保険が無ければ申請させる。一人暮らしに戻れるほどADLが改善するまでの入院はありえないし、回復するという保証も無い。家族と暮らしていても介助が必要な年寄りが帰ってくることを家族が拒否することも多く結局リハビリ病院を経由して老人保健施設コースへと長い旅路に出されることになる。

2.認知症
 認知症の有無については付き添ってきた家族に尋ねても当てにならない。知らないふりをしたり認めたくなかったり入院したとたんに発覚したりする。次の日に病室を尋ねるとジャンプスーツを着せられていることも。認知症があると術後のリハビリ転院の受け入れ先がとたんに少なくなる。日ごろから認知症の患者を引き受けてくれる施設にコネを持たなくてはならない。症状も消え入院の必要が皆無になっても認知症の老人を引き取ることを嫌がる家族は何かと理由をつけて入院を伸ばそうとするのもやっかいな問題。

 ちなみに、夜中に大声を出したり、ナースコール頻回だったり、ベッド柵を乗り越えて徘徊したり、と手に負えない場合には、「やむをえず退院して頂いたり、可能な限り家族に付き添いをお願いすることもあります」と家族に話しておく。「こともあります」というフレーズにエスプリがきいている。それに病棟看護師の「あの患者さんいつ帰るの!」攻撃も悲しい。

3.真のキーパーソンを確認
 「安静のみの場合はせいぜい2週間で帰ってもらいます。家庭での受け入れが難しい場合はリハ病院へ。それでよければ入院してください」と最初からキーパーソンに言いふくめる事が重要なので、患者を連れて来た人間がいったい誰なのかを必ず確認する必要がある。少し離れたところに住んでいる長女が連れてきて、うっかり入院させてしまい、退院する直前になって、近所に住んで実質面倒をみていた長男とその嫁が、「こんなんで帰らせてもらっては困る」と言い出すこともある。最初の付き添いが近所のオバちゃんだったりするといくら話してもムダなのでくれぐれも早合点しないよう注意。いくら外来でカルテが山積みでも焦ってはならない。

 今当直中なんだけど、もうすぐこんな生活ともお別れなので感傷に浸りながら記してみました…