医師のアルバイトについては良く考えた方が良い


 ご無沙汰してます。こんにちは。

 「立ち去り型サボタージュ」がこれからの辞職スタイルとして定着しつつあるそうですが、私の中のプチ「立ち去りたい」経験をお話したいと思います。病院勤務医ではないので、ちっとも壮絶ではありませんが、私としてはちょっとした憂鬱な問題なのです。一般論も良いけど、こういう各論的でプライベートな話って面白くないですか? 面白いよね?

 私は整形外科の医者なんですが、現在は大学院で研究生活を送っています。つうわけで、学費を払いつつ、収入ゼロの30過ぎたオッサン学生です。収入源はアルバイト…各地の小規模病院の外来や手術で日銭を稼ぐというわびしい毎日。まあ、私もまだまだ若いですし、お腹の大きい妻も居ますし、将来の希望たっぷりですよ…ハハハ…

 で、今日はその手術アルバイトについて。

 バイト病院は小さな外科の個人病院なんですが、この医者不足のご時世ですから、整形外科の常勤医が居ない。探したって居るわけない。それはデフォルト。やらなくて良いのに救急を受け付けているので、どういうわけか整形常勤医もいないのに、頚部骨折や手術が必要な患者さんをガンガン入院させています。まあ、私はそこで週に一回、夜に外来をやっているわけで、年間50例近く私が当然のように骨折の手術を引き受けるの刑に処せられています。

 まあ、手術に関して何をするかといえば…決して高くはないアルバイト料でオール・インクルーシブ+何かあったときの訴訟リスク…priceless!

① 手術が必要かどうか判断する。私の手に負えるものかどうか見極める。無理なら他の病院に転院。

② 手術予定を立てる。助手の先生を手配する。ま、通常は同じ大学院生。わざわざ連絡するのが面倒。都合がつかない場合もある。出来れば慣れた先生としたいが、医局の紹介で初対面の先生と手術をしたこともある。助手の手配はいつもストレス… そして業者に手術機械を注文。

③ 患者さんに説明。家族の人にも説明。十分に説明。大体、骨折するのは70〜100歳のお年寄りがほとんどなので、手術による負担が大きい場合がある。とにかく色んな可能性を説明。

④ よほどハイリスクで無い限り患者さんは私が腰椎麻酔…そして手術

⑤ 手術の後は患者さんのフォロー。リハビリの進行具合、キズが膿んでないか、採血の結果、レントゲンのチェック…まあ、自分が行った手術ですし、そりゃチェックも真剣です。

 で、まあ何がマズいかについて…

① 手術の日が不定

 患者さんがいつ骨折して入院してくるかどうかなんて予測不能。来ないときは来ないが、冬の間などは、死ぬほど入院。病棟で手術待ちの患者さんが蓄積。常勤でもないのに週に3件もすることになれば、さすがに私、大変。逃げ出したい。

 問題はこの不定期さであって、入院が入れば院長は当然のように私に連絡して「いつ手術してくれますか?」のコール。私は自分の予定をキャンセルする必要があるので、勤務時間外にも相当な拘束を受けていることになります。一回いくらでバイト料を払えば良いという話では全く無いのです。これはストレス。呼ばれたら呼ばれただけお仕事する私は、アバズレと呼ばれても仕方がない、とてもお人よしなのです。

② 過誤や事故の際、私の身の振り方は…

 申し上げておきますが、私は誓って細心の注意を払って仕事をしております。ところが、私は生身の人間ですし、当然、過誤や事故などが起こる可能性は確率的には「ゼロ」ではないです。そんな場合、フォローしてくれる人…まあ、居ないんじゃないでしょうか。「大学院生がアルバイト感覚で手術しっぱい!」なんて見出しとか無くはない。今までがとても運が良かったとも考えられます。5年前ならともかく、少なくとも今のご時世、医師としてこんなリスク管理はありえない。私もダテに医療系ブログやってない…

 ま、そんなわけで、4年近くこのバイト病院に勤務してて、さすがにもう疲れたので、春だし、バイトの配置換えの季節でもあるので、「もうこれだけ辛抱したんだから、だれか他の大学院生に代わってよ〜」ってバイト係の先生にメールを送ったら、「あんたのバイトは怖がって誰一人希望者がいない」んだそうだ。あたりまえだ。代わった先生も気の毒です。

 で、もう仕方がないので、私がいかに疲弊しているかというアピールくらいしなきゃならないし、さらには「派遣を止めたらどうですか…」的な話を丁寧にメールで書いて、バイト先を統括するもっとベテランの先生に送ったのさ。わたしの悲壮感たっぷりの文章が効を奏したのか知らないけど、「それは大変だったね…」みたいな電話があり、早速、その院長と交渉して手術数を減らすか、手術を受けるなという内容で話してみると… おお…ありがとうございます…

 その後、交渉の結果がその先生から電話で伝えられました。まあ、どうせ何にも変わりゃしないだろうとは思っていたのですが、案の定。バイト病院の院長に言いくるめられてましたわ…「整形外科の手術をやめるのは出来ないけど、院長も常勤医を探すように検討するらしいから、先生も思いつめないで余裕のある時だけ手術することにしてよ…」それが出来ないから相談したんだよ。患者さんを待たせるのってすごい抵抗があるんだよ。大体、常勤医なんか来るわけないでしょう…まあ、これからは堂々と「忙しいので手術する暇がありません。他院に送ってください」攻撃で凌がざるを得ないんだけど…それがオッケーになったということだけでも良しとする。なんつうか以前なら「手術して経験を積みなさい」的な意図もあったのだと思うが、そんな発想は今や古すぎると思う。それに、今の大学院生はみんなこんなバイトを敬遠しているんだよ…

 個人病院の院長は自分の生活がまるまるかかっているわけで、すっごい「したたか」。収益が減ると本人は困ると思うけど、私にとっては、こんな常勤医がいない病院は規模を縮小するべきだと思う。定型的な骨折の手術なんて、もっと中規模の施設でベルトコンベア式にやったほうが効率が良い。わざわざ私のようなハンパな非常勤医師を配置して、患者さんに備える必要なし。その方が患者さんにとっても良いと思う。結局は、常勤医を雇うより、バイトの医者を安く囲っておいた方が経費がかからないんだろうと思う。今はどこの病院もアウト・ソーシングしすぎ。この間などは、代理で別の病院の外来を手伝ったら「あさって当直してくれません?」だって。無理だよ。いくらアバズレの私だって、いきなり…私、そんなに遊んでるように見られたのかしら…

 このあたり、バイトで生活せざるを得ない、大学にいるけど給料をもらってない、シニア、非常勤、大学院生、研究生のような、目標はそれぞれあるとは思いますが、生活の糧を得るためだけに乞食っぽい労働環境に置かれてしまっている皆さんにお伝えしたい。当直したり、外来したり、手術したり、健診したり、バイト病院でヘコヘコお給料を貰っている場合ではないと警告したい。雇用に関して意識が低い病院については容赦なくクレームをつけていくべきなんじゃないでしょうか。つうか、私は最低限生活が出来ればお金なんて要らないんだよ。当直はやりたくないし、実験の時間が欲しいんだよ。赤ちゃんが生まれる前に論文を書きたいんだよ…

 で、やっぱり同じ医師でも、勤務医やアルバイトをせざるを得ない若い医師にとって、院長とか大学のスタッフの医師という、一部の古いタイプの先輩医師のみなさんは、「この医療崩壊時代に私達医師が力を合わせて乗り切っていきましょう」という観点からみれば、明らかなエネミーであって老害に近いとあらためて実感。こりゃ崩壊進むゾー。少なくとも使う側と使われる側という構図はどうしても無視できません。だからネットで盛り上がっているような単純な「国民VS医師」「マスコミVS医師」「厚労省VS医師」という構図だけではなくて、敵は同じ医師の中にあって、とても身近なところにいると思います…

 大学のスタッフもこういうくだらないバイト先を淘汰して、勤務しやすい病院からの収入を確保するようにして、大学のシニア、大学院生、研究生らのQOLを上げてやらないと大学には人が戻ってこないと思うわけなのです。まあ、どうでも良いけど…