妻が脳科学で攻撃してきた

 留学先のアメリカのラボへ採用面接に行く前の話。英語は不自由だし、採用してくれるかもわからないし、不安で小さな胸がはりさけそうになった私は、「よー考えたらなんでこんな面倒くさい事をわざわざしにいかなあかんねやろなー」とつい妻の前で弱音を吐いてしまったことがある。妻の私に対する愛情と関心は、結婚当初と比べてあからさまに薄らいでおり、妻は普段それを隠そうともしないので、「知らんやん。自分で決めたことやろ」と返ってくるかと思ったが、「ええ事教えたろか。アウェーで戦うと脳にええらしいで。茂木さんがテレビでゆってた」と、いわゆる大阪のおばちゃん丸出しながらも、すこし温もりのこもった返答があって驚いた。アメリカへ行って外人ばかりの前で英語で自分を売り込むというのは、まさにアウェーで戦う事に他ならない。妻よ、お前は私を元気づけようとエールを送っているのか…私は不覚にも感動してしまった。

 ところで、茂木健一郎の語りは江原啓之のスピリチュアル・カウンセリングとよく似ている。具体的には何がどう良いのかさっぱりわからないけれど、「脳に良いもの」「脳を活性化するもの」に価値をおく語り口はとてもシンプルで気持ちを楽にさせる効果をもっている。仕事で非常に困難な状況に陥って、もうどうしようもないくらい辛い…という時に、「無理せず少し休んで良いのです。脳は本来そのように機能するように出来てます」と言われるとホッと安堵する人もいるだろう。「もうダメだという状況から気を取り直して頑張ってみてください。脳はそんなとき活性化されるのです」と言われると、何だか、やってみようか、という気になるかもしれない。「失敗しても良いから精一杯がんばろう。この経験は絶対あとで何かの役に立つから」よりは「脳に良いから」のほうが具体性と説得力がある。関係ないかもしれないが、茂木さんも江原啓之も目が細くてポッチャリして何か共通項があるような気がしてならない…

 で、妻の話に戻るんだけど、「おお? そんな事言うとは珍しい。何かええ事あったん?」と尋ねると、「あんたがアメリカ行っておらん間にご飯も作らんでええし、実家でぬくぬく暮らせると思うと嬉しくて嬉しくて…」ほう?「私がときどき愛情を欠いた態度であんたに接して居心地の悪さを覚えさせてるのは、本来、あんたにとって文字通りホームであるこの家を、「アウェー」として感じてもらうことによって、あんたの脳を活性化…」よーしわかった、みなまで言うな。ありがとう可愛い妻よ。つくづく、私は懐の大きい男だと思うよ。(←常日頃アウェーで戦ってるおかげ)