医師不足はなぜ? 偏在 or 絶対数不足

 医師不足の原因は「偏在」と分析する西村周三氏(京大経済学部) VS 「絶対数抑制が主因」と主張する本田宏氏(済生会栗橋病院外科部長)… ネットでちょっと話題になっていました。

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 闘論:医師不足の理由 西村周三氏/本田宏氏

 えーと、まず議論がかみ合っていません… 

 西村氏の言う「偏在」の詳しいデータがあるのかとても興味があります。私個人の実感としては、明らかに地域別、ライフスタイル別で「偏在」は存在していると思います。地方都市にいる私の弟の回りでは明らかに医師が不足してそう。弟は卒後ずーっと6年くらい病院に軟禁状態ですが、私は幸にも卒後の勤務でそういう経験がありません。(同じ科で一つしか年は違いませんが…この辺は壮絶なので、またエントリにする予定)

 一方、外科部長の本田氏の述べる根拠は「現場は過労働でギリギリ…」おっしゃるとおりですが、いまいち、議論がかみ合ってません。対談の意味が無さそう…

 どちらも正しく一理あるのであって、仮に医師の絶対数を増やそうが、偏在がある限り、医師不足は環境によっては解消されない…という事実に注目したい。「現場を見てモノを言え」…と言いたくなる方もおられるのかもしれませんが、西村氏は数少ない医療経済学の専門家(医療の専門家である医師もシロートに無根拠に否定されると頭にくるでしょう…)の一人で、医師が出来ない以上、誰かが「机の上」でデータを俯瞰する必要があるわけです。デタラメな事を放言して西村氏に何かメリットがあるとは思えませんので、嫌悪を抱く前に、まずは耳を傾ける必要があると思います。医師が「絶対数不足」を主張するのも良いですが、「偏在」説を頑なに否定する必要は無いと思うのですが…

 感覚的にモノを言って申し訳ないのですが、「絶対数が足らない」というのであれば、昔からずーっと足らなかったわけで、最近特に「医師不足」が取り沙汰されるようになった主要な原因ではないように思います。各々のスタッフ不足の現場の医師の過労働はよく言われていますが、それは「医師の絶対数を増やす」だけで解決できそうにない複雑な問題だと思いますし、「医師の偏在」という問題を過小評価する可能性があるため、ここに持ち込むべき議論ではないと思います。一方、「医師の偏在」は、正体をとらえにくく、なかなか解消できそうにない不気味な存在だということに注目すべきでしょう…

 まあ、書くのも面倒くさいのですけれど、この毎日新聞の記事は「経済学者 VS 現場の医師」という構成をとることによって、いつもの「国民 VS 医師」という2項対立の構図をあらわしている…というのはもうお気づきになられていると思います。本田氏も都合よく配置された感がぬぐえません。しかし、これはこれで別に良いと思います。情報が少ないながらも読者の皆さんには理解しやすくて良いと思います。ところが、こういうメディアの報道パターンにまんまと引っかかって、いちいちネット上の医師が過剰気味に反応して、患者さん、警察、厚生労働省、果ては経済学者にまで敵意を剥きだしにするようになり、結果として「烏合の衆」に成り下がる事の方が問題なのでは…と危惧しています。