プロポーズの件につきまして

 ラボに私に付いて仕事を助けてくれる学生さんがいるんだけど、名前をアレックスと言ってウクライナ由来のアメリカ人なんです。2歳の時に両親と渡米したらしい。彼は今21か22くらいのはずなのに、先日、二つ年上の女性と結婚した。そんで、新居、といっても大学院生用のアパート、に私ら家族を夕食に招いてくれたので、ありがたく行ってきた。

 相手は19の時にウクライナから来たヴェラと言う綺麗な娘さんで、UCSD のメディカルスクールに入学したばかりのスマートな女性である。さすがウクライナには美人が多いという評判は本当なのだと実感した。アレックスは将来メディカルスクールに行きたいので、こうしてラボで実験などを手伝って履歴書に磨きをかけようと頑張っている。しかし、奥さんが先に医者になって、いつまでもアレックスが医学部に入れないでいると、あっさり捨てられるのではないかと心配になる。ラボの実験はテキトーにして机に向かってガリガリ勉強して欲しいところ。

 まあ、私らは英語があんまり出来ないし、人と付き合うの苦手なので、たいそう疲れて帰ってきて、直後に二人とも風邪を引いてしまったのだが、いろんな話をしてくれてまあ楽しかった。二人は出会って半年で結婚を決めて、プロポーズのために、アレックスはスノーモービルを借りてスキー場の上まで彼女を連れて行って、そこで「結婚してくれへん?」をやったらしい。さすがロシア方面から来た連中だと感心してしまった。ティモシー・ダルトンがボンドをやった「リビングデイライツ」を連想した。それにしても大学生でそのリア充ぶりはすごい。

 それを聞いて私が妻にしたプロポーズのことを思い出して、激しく後悔した。私らも付き合って半年くらいで結婚することにしたんだけど、当時デートで一緒に酒を飲んで酔うと、互いにわけがわからなくなってよく大喧嘩したりしていた。その時は、泊りがけで奥飛騨の温泉に行って、その時にどこかのタイミングでプロポーズしようとしていたら(←まず、こういう計画が杜撰なところがダメ)、当然うまくいかなくて、夕食のときもお互い酔って、大喧嘩になって、結婚しようと言うどころじゃなくて、結局大阪に帰ってきて、晩御飯を食べて、また酒を飲んで酔って、私のアパートに向かって、病院の裏の道路を歩いていたときにも、なんかの理由で言い争いになって、「結婚して欲しい」が計画通り言えなかったので、むしゃくしゃしていた私は、つい「だから! 俺は! あんたと結婚したいって言うてんの!」とか何とか言ってしまって、わ、しまったという状況になって、「まあ、その大事な問題やからちょっと考えといて…」と言って送って帰ろうとしたら、妻が「いや、ちょっと待って、ええよ。するよ」とか言う感じでかなりグダグダになってしまった。そんで、「結婚しようか。そうしよう!アハハハ…」みたいな事になって今に至る。

 傷つくのが怖い私なので、相手が結婚適齢期だった事、当時は私の事を十分好いてくれていた(と思う)事、の2点の理由から、十分これは勝てるという、いやらしい自信があった。だからこそ、もう少し余裕を持ってハートフルな演出をするべきだった。まあもう手遅れだけれど、自分が不甲斐ない。許せない。こういう横着な所が本当にだらしない。当然、妻によると私のプロポーズは0点である。そんで、今、もう一回結婚してくれというと、断られる可能性が高い。

 いや、あの頃が懐かしい。今では信じられないが、妻は「私の事どれくらい好き?」とか「私を納得させる答えが用意できないとだめ」などとのたまってのだけれど、今現在、「ところでさ、俺のことどんくらい愛してんの?」とか尋ねると、「死ね」と真顔で答える。妻は事あるごとに夫としての私を返品したいと言う。それに対して、私はめげずに「まあ、新しい俺が再度配達されるだけやけどな…」と返している。「ああ、結婚生活リセットしたい。リセットボタン押したい」の訴えに、「まあ、リセットした瞬間から再度俺との新しい結婚生活が始まるだけやけどな…」と気力を振り絞って返している。何これ死にたい。