ネットで医療は良くなるのでしょうか…

>多種多様の意見を聞けるのがネットの良いところ 

 前回コメント欄への返答のつもりで…というか、私の勝手な意見のほとばしりになっていますが…これについて考えてみました。

 多種多様の意見を聞けるのがネットの良いところ…それは本当にそう思います。しかし、雑多で大量の情報が混沌と存在するというネットの負の影響が、次第に医療ブログ界隈に生じ始めている気配をひしひしと感じます。少なくとも8年ほど前、私が学生の頃には医師や医学生のブログなど、ほとんどありませんでした。ここ数年でネット人口は爆発的に増え、それに伴って情報量は把握しきれないほど増えました。それは非常に良い事だと思います。ところが、その中から正しい情報、立ち止まって考えてみたいと思わせるような意見を拾いあげるためには、ネットでの情報収集に慣れる必要と、それなりに時間をかける必要があります。そんなわけで、本来は「ネットで情報を取捨選択したり、発信したりするのは、それほどお手軽ではなくなってきている…」にも関わらず、(最初はみんなそうですが)あまり情報選別に慣れていない新しいネット参加者がどんどん増え(参加者が増えるのはとても良いことです)、ある者は情報を鵜呑みにし、ある者は頭に浮かんだことをすぐに掲示板に書き込んだり、ちょっとした事件メモ感覚でブログにアップするという負のスパイラル…結局のところ、たった一つの明快で気持ちよい、陶酔させてくれるような意見に一本化された、巨大な烏合の衆が出来上がる可能性も否定できません。ネット上での発言は、完全に自由なわけではなくて、あまり一般的でない意見には、「炎上」という形で多数のバッシングコメントを受ける怖さもありますが、大抵は誰にも気付かれずに埋もれたまま放置されていることがほとんどなのでしょう…(まあ、バッシングされてもしかたない配慮のない意見もありますが、とにかく、ネットでモノを言うのはそんなにお手軽ではありません)

 ネットを通しての「匿名の発言」で社会を変えようとすれば、その限界は確実に存在すると思っています。今のところはまだ、ネット利用者には偏りがあり、ネットは世間の縮図ではなく、「ネット世論≠現実の世論」です。ネット上では一見、「死ぬ死ぬ詐欺」バッシング(とんでもない…)の嵐が吹き荒れたようですが、現実にはそんな事態をものともせず、募金を集めきっています。ネット全体になりますと、大きな話になりそうですので、これくらいにいたしますが、私を含め、ネットでブログを運営したり、それにレスポンスしたりするのは、ネットの情報の閲覧者のさらにほんの一部の人間です。いつかは医療の現状を、医師から国や地域の患者さんにたいして堂々と、アピールできるような方策を練る必要がありますが、昨今の医療現場のみならず、教育現場叩きを繰り返すマスコミを見ていますと、個人的には、手を組むのは非常に困難だと思います。もし、私がマスコミでしたら、医療現場の爛れを面白おかしく喧伝して、ネタに困ったときの埋め草とするでしょうし、原理的にマスコミとは真実のみを伝える商売ではないと割り切ってしまうと思います。

 将来、何らかの形で、医師(主に病院勤務医)のオピニオンを発信する団体を立ち上げるか、既存の学術団体のサブセクションとして作るか…これは絶対的に必要なのでしょう。個人的に、それらが出来上がるまえに、さしあたって重要だと思うのは、個々の現場で問題点を指摘することだと思います。例えば、「奈良県の搬送システムには改善の余地がある」事を、前もって医師らが指摘し、県の病院局などに文書化して上申しておけば、事件が起こっても、これをアリバイとして病院管理側と責任の所在を分かち合うことができます。一方、改善の機運が起これば、それはとても素晴らしい事です。予算がなければ、地方自治体が国などにさらに上申しておくべきです。こういった草の根的な「あざとさ、したたかさ」も必要だと思いますし、これについては、比較的取り掛かりやすいと思います。患者さんたちも、「医療は医師個人の裁量だけで成り立っている」という前時代的な考え方から脱却し、自分の地域の基幹病院の各論的システムに問題がないのか? といった視点で監視するべきだと思います。それにもかかわらず、旧態依然としたコンプライアンスの悪い施設からは、医局からの医師派遣をどんどん取り止めると、脅しをかけるか、実際に引き上げるべきです。もともと、厚労省はこうした医療崩壊の流れに乗っかって不要な病院を切り捨てようとしているのに、「患者が困るから…」と医師が頑張るからなかなか淘汰が進みません…皮肉なことです。

 話がずれてしまいました…ネット上のブログの中には、逆にマスコミの煽った「世論」に医師の方が翻弄されているケースも散見されます。(増えてきた気配があるのかもしれませんが)全ての患者さんが最初から医師に向かってケンカ腰で診察室に入ってくるわけではありません。やはりネット上で切り取られた現実と、実際の医療現場には乖離があること(恐らくそんな事は医師の皆さんはご存知だと思いますが)は忘れたくないものです。

追記 Yosyan先生のブログのコメント欄に興味深い提案を見つけました。こういう興味深いコメントを日々追っていくのはとても時間と手間がかかります…