どっちが無過失補償の財源負担? 産科医VS国

 無過失補償制度の財源を産科医に持たせようとする政府に対して、日本医師会(この団体はそういう役目)とネットの医師たちはヒドイ…とまたまた憤りを感じています。産科医からすれば財源まで負担させられると踏んだり蹴ったりなわけなので…

 当然の事ながら補償制度が出来上がればモラルハザードが生じるおそれがあります。さらに国が全額を補償しますみたいなことになれば、「事故かどうか良くわかんないけど、患者さんが気の毒な状態になったから、とりあえず国に補償してもらっちゃおうか?」という雰囲気になりえます。お産の事故を無くそう&事故でないお産まで事故扱いにして補償費が増えては困る、という観点からは、国は財源を持たないという意向は、仮に財源が潤沢にあったとしても死守すべき立場なのです。これは国として正しい意見だと思う。

モラルハザード
危険回避のための手段や仕組みを整備することにより、かえって人々の注意が散漫になり、危険や事故の発生確率が高まって規律が失われることを指す。

 モラルハザード疑惑に対して「医師は基本的に真面目で善人だから」を根拠にするのは無理があるので、将来この点を突いてくるような理不尽な産科医への攻撃を避けるためにも、形式的には「費用は産科医もち or 分娩施設もち」にしといた方が良さそう。産科の診療報酬を上げるなど(これは病院管理者が喜ぶだけかも)何らかの形で産科医に還元されるアメ的な方策も打ち出せばよいのに…

 最も大切なのは、「このお産はセーフ、このお産はアウト」という、事故とそうでないお産の線引きができるようなガイドラインを作るよう努力することでしょう。訴訟の数も全く把握しきれないほどではないと思いますので、産科の専門家による詳細なデータ化と検証が必要だと思います。そちらにガンガン時間とお金を使って頂きたい。

 それよりも問題なのは、悲しいかな厚労省の打ち出す政策は「愚策の宝石箱」みたいな雰囲気(そうばかりとも言い切れないと思うのですが…)が医師らの間ですでに醸成されているので、妄信でも嫌悪でもない冷静な距離を保った議論が見当たりにくいというこの現状…切ないです。

 ◆ 関連リンク

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医療事故:「無過失補償制度」創設へ 自民が検討会を発足
 自民党は7日、「医療紛争処理のあり方検討会」(座長・大村秀章衆院議員)を発足させ、多発する医療事故への対応策づくりに着手した。当面は、出産時の事故に関し医師の過失を立証できなくとも患者に金銭補償する「無過失補償制度」の創設に向けた議論をスタートさせ、年内に法案化への道筋をつけることを確認した。

 医療事故に絡む04年の民事訴訟は1110件で、10年前の約2倍。うち産科は143件で、件数では(1)内科(272件)(2)外科(228件)などに次ぐ4位だが、医師1000人当たりでは11.8件で最も多い。厚生労働省は「産科医の不足は訴訟リスクの高さが招いている面もある」とみており、被害者救済策に加え医師不足対策にもなるとしている。

 同制度に関し、日本医師会は税と妊産婦負担を財源とするよう主張しているが、政府は医師側に負担を求める考え。同検討会は厚労、法務両省、警察庁と財源や運営主体、補償すべきケースなどを検討し、年内に結論を出す方針だ。その後は、第三者機関による事故原因究明制度なども議論する。【吉田啓志】

毎日新聞 2006年9月7日 18時00分

 つづきです → どっちが無過失補償の財源負担? 産科医VS国 その2