しかたなく勤務医始めました

 「留学したい」とは言ったものの、ついダラダラと過ごしてしまい、9月に入って慌てて興味のあったアメリカの研究室にポスドクとして雇ってもらえないかと無節操に20通ほどメールを送ったところ、運良く4つのラボからインタビューに来ても良いけど…という返事をもらった。あとは無視されたり、断られたり、フェローシップを持って来いとか言われたり。送り先によって文面にはかなり工夫を凝らして時間をかけたので、返事が届くたびに相当一喜一憂した。

 9月後半には学会ついでに都合のついたJohns HopkinsとUCSDの二つのラボにインタビューに行った。これまでの自分の研究に関して30分くらいのセミナーを行い、ボスや所属の大学院生やポスドクたちと面談してほぼ一日仕事。慣れない英語のストレスはすさまじく、集中力を維持しようとして心底疲れた。研究や仕事に関しては何とかしつこく聴き返してコミュニケーションが出来たけれど、他は何を言ってるのかさっぱり理解できなかった。返事をもらうまでアメリカ放浪中はとことん悶々としたけれども、それでも何とか帰国後に両方から良い返事をもらい、ようやくほっとした。まあ色々考えて来年4月からはSan Diegoにいる予定。…たぶん。

 メールで正式なオファーとアクセプトのやり取りをしたもの、来月に先方から送られると言ってたアポイントの書面を見るまでは何となく落ち着かず、信用できないので、あまり他人にも伝えていない。「君の採用はやっぱりナシになった」とかいうメールが届いたらどうしようかという新たな不安が芽生えている。

 で、9月末に大学院を修了し、とうとう長かったモラトリアムは終わってしまったわけで、10月からはまったりとした一般病院に勤務中。うちの病院は基本的に9時5時で、あまり専門的な臨床を学ぶ事は少ないけれど、時間に余裕があるのはとてもありがたい。勤務して最初の頃は「もう帰るけどええんかいな」という落ち着かない気分でタイムカードに打刻していたけれど、恐ろしいことに3日で慣れた。

 どうせ長く勤める予定でもなく、半年後には留学で出費もかさむ事を考えると、空いた時間はバイトに精を出す事にして、これでもかと週に3コマのバイトを入れた。私に今必要なのは臨床経験ではなくマネーであるという悲しい現実。夕方が近づくと、時間外の患者が来ない事を祈る毎日で、近医から小学生が手術が必要な腕の骨折をしたという連絡が入るのが一番怖い。ただ、大学院生の間や、短期目標のために割り切ってバイトに精を出す現在は、この働いた分だけ所得が増えるという状況はシンプルで良いけれど、今後も雑駁な時間の寄せ集めで所得を計上するというのはあまりエレガントな職業人ではないなあと悩んでもいる。いや本当に。