代診のブルース、代診のブルース聴いてくれー

 うー…あんまり大きい声で言いたくないのだけれど、お金が欲しい。

 ちかごろ何がどうなっているのか知らないけど、私の銀行の口座からお金がモリモリ減りつつあって焦る。とりわけこの時期には大学の学費とか固定資産税とか府民税とかが二人分襲い掛かってきて何かゴッソリ減った感が強まっている感じ。あと(自動車税+車検)x2とか。送られてきた納税通知書とか見てたらなんか無性に腹が立ってきた。何かの間違いとか巧妙な振り込め詐欺じゃないかと往生際悪く抵抗してみたけれど、払わなくて済む理由は無さそうだった。それとまあ、子育て中の妻の収入が大幅に減ってるのも我が家の貧困の原因の一つなんでしょう。その割には妻の金遣いはあんまり変わらない。明らかに見たことない靴や服が増えているのを私は知っている。問い詰めても「ずいぶん前に買ったやつだ」としらを切る。

 ていうか家族が一人増えると確実に出費が増える。これからもっと増えて行くのだろう。こんな事を考えていると何だか不安になってしまい、私は家族のために、不本意だけれどもバイトを増やしたんです。バイトの代診依頼のメールがまわって来たら2秒で返信して積極的に行くようにした。今までは頼まれたって余分なバイトをしようとは思わなかったけれど、幸い論文の返事待ちだったので時間には余裕があった。行けば行くだけ収入は増えるのだけれど、どこまでスケジュールをタイトにしてよいのか、バランスが難しい。何でもかんでも引き受けていると、引き受けないと何か損をしたような気分になり、しまいには「それは俺の金だったのに…」と思えてくるから注意が必要だ。

 先月の頭は、同門の開業医が急病で倒れたそうで、志願して外来の代診を数日間やった。普通、診療所には技師がいないのでレントゲンを自分で撮らなくてはならない。とても疲れたけどバイト料は沢山貰った。誰でもそうだと思うけどお金が貯まるのはとても嬉しい。これで、春の納税ショックから立ち直ることができるだろう。あと家族で沖縄とか行きたいんだけど、これもバランスが難しい。そもそも1歳の子供に近所のプールと区別がつくのか怪しいし。まあ、一番行きたがってるのは妻で、エステがどうとか布団に入る前から寝言を言って困る。まあ彼女としては、子供を産んで、毎日子育てして、私のご飯を用意して、合間にバイトに行って、実験して論文出して、この一年これだけ頑張ったんだから、デフォルトで何かしら慰安が付いてくるはずという発想なんだけれど、その金を稼ぐのは私しかいない。

 本気でお金が足りないときには、実際にするかしないかは別として、実家の両親に無心するオプションもあるのだけれど、息子が生まれてから何と言うかそういうのもそろそろ違うんじゃないかと思う。父親は実家の診療所で比較的健康に働いてるので、まあ無茶苦茶に裕福なわけではないけれど、いざと言うときにはアレする余裕があって私はまだ恵まれている方だとは思う。しかし、まあそう考えると、自分が父親から受けたのと同じだけの経済的援助を息子にしてやることが出来るのだろうかと悩む。悩んでいるうちに、いっそ同じ医者の息子なら、無床診療所のしがない開業医の息子ではなく、高須クリニックの息子に生まれたかったと思うようになってくる。少なくとも被扶養者であるうちは、人知を超える豊かな暮らしをさせてもらえたかもしれないし、私のぼんやりしたまぶたも中学受験に受かったご褒美に二重に手術してくれたかもしれない。後、今さらだけど、お金があったら歯並びの矯正がしたい。

 この間、息子とテレビで高須クリニックのCMを見てて、「ほら、おじーちゃんテレビ出てるよー」とつい妄想が口から出てしまい、妻に「Kちゃんにデタラメ教えるのはやめれ」と怒られた。それにしても、美しくないもの、有害なものから息子を出来るだけ遠ざけようとする妻の努力は凄まじく、ときおり私はその対象になり我が家から排除されそうになる。どんな文脈だったか忘れてしまったけど、息子の前で「カーンチ、セックスしよ?」と言って激怒されたこともある。そんなわけで、せめて頑張ってお金を稼ぐふりぐらいはしておかないと具合が悪い。