私は青っ白いわりに存外夏が好きな人間なの…と告白してみたところで何の役にも立たないというのに

 めずらしく十二時の受付終了まぎわの患者さんの受診はなかったらしく、十二時二分にはタイムカードに退出の打刻をすませて、小躍りしたい気持ちを抑えて鼻歌交じりで職員通用門から病院裏の駐車場へ出たのだけれど、おもてに一歩踏み出したとたん、郊外の喧しいセミの鳴き声に圧倒され、強烈な日差しに思わず目をそばめてしまった。院内のききすぎた冷房で冷えてしまった体にはこの茹だるような外気温が案外気持ちよい。年寄り相手の辛気臭いアルバイトもようやく終わったわけだし、見上げた空はこんなに何処までも青いというのに、午後からもっと辛気臭い実験のために急いで研究室に戻るなんて、とてもちぐはぐな行動のような気がしてくる。通用門わきのトタンで仕切られた職員専用の喫煙コーナーではどこの病院にも居そうな品の悪い茶色の髪の毛を後ろにしばったシミだらけの女性職員が人生に疲れたような顔で煙草の煙を吹き出している。大学に入った十八の終わりからずっと吸っていたセブンスターは昨年の夏に風邪をひいたのを切欠にすっぱり吸うのをやめてしまっていたけれど、こんなに腹が立つくらい鮮やかであからさまな真夏日にはささやかな開放感に浸りつつ久しぶりに一服したくなる。「あーやっとれんわ、まったく」などと眉間にしわを寄せて毒づきながらも、満更でもなさそうにゆっくりと煙を吐き出したい。それにしてもこのところ思うように進まない実験とは無関係に今年も夏が来てしまったのだなと思うと無性に焦るけれど、それはそれでしかたないのだろう。