車内では静かにするべき

 時々、電車でイヤホンからあふれるほどの音量で音楽を聴いてる人に遭遇して困る。

 通勤時間を無駄にしないように論文を読んだりしてるのだけど、漏れ出した音が気になって集中できない。特にあまり読みたくない論文の場合には、同じところを何度も読んでしまって気が狂いそうになる。ここは、さっき読んだな…と思ったら何と! タイトル! だったり! あまりに大きい音なものだから、間違えてイヤホンの音の出る側を外に向けて装着してるんじゃないかと思って、注意してその人の耳を見るけども、音の出るほうをきっちりと耳の穴のほうに向けているようなので、いつも激しくがっかりする。もしも逆に着けていたら、「あなた、イヤホンを外向きに着けてますよ」「サンクス!」と相手に感謝されつつ、耳障りな音の問題も解消されるのに…と思う。しかし、いまだかつて装着の仕方を誤るような人間やそんな構造のイヤホンに出会った事がない…

 この間などは、60くらいのおばさんが私の近くに座り、彼女のほうから小さく英語らしき言葉が聞こえてきた。彼女がイヤホンで聴いている英会話のテープの内容でも漏れて聞こえてるのかしら…おばさんにも油断できない世の中になったものだ…と暗い気分になったのだが、よく聴いてみると、発音がたどたどしく、まるで日本のおばさんが英文を棒読みしてるような感じ。そんな馬鹿な…おばさんに目をやると、ノートを見ながら、何やら英語のセンテンスらしきものを堂々と声に出して朗読していた。老眼鏡をかけた目から、手に持ったノートをできるだけ離そうとしてピンと背筋を伸ばしている。見れば見るほど小賢しい…老いを逆手にとって、何をやらかしてもほのぼのと許されると思っているのかしら…

 というわけで、世の中にすっかり絶望しきってしまった私ですが、ほんとに自分の事しか考えない輩が多すぎると思うのです。もっと周囲の人間に気を配って生きるべきだと思います。私なんかは他人に遠慮しすぎて、電車内では出来るだけ気配を消そうと、車両の連結部に入って過ごすようにしているというのに…(足元が異常に不安定なのが難点)

 さて、ちょっと前に、妻の両親が還暦を迎えたので有馬温泉にお祝いに行ったのですが、泊まった旅館のロビーの池に飼われている鯉の中に、先ほど電車内に登場した無遠慮な輩とは正反対の、気を使いすぎて損ばかりしている、まるで私のような一匹を見かけたので紹介したいです。

かわいい昭和三色にエサをあげようね

ああっ! 食えてないやん!

ああっ! また! がんばれ! (半泣き)

 ほかの鯉にエサをとられてしまって、どうも全然食えてないみたい。あまりにも私そっくりな行動に、親近感以上のものを感じてしまい、思わず池に飛び込もうとズボンを脱ぎかけたのですが、妻に恐ろしい形相で引き止められ断念。


 そんなわけで、「この子、全然エサ食ってないので不安…」と旅館の従業員の方にお伝えすると、慣れた手つきで食パンを口にダンクシュート。ああ…本当によかった! まあ、それはそれとして、エサをあげてる最中に、いきなりこの人を池に突き落としたらさぞかし愉快だろうな、と思ってしまいました…