ノッキン・オン・ザ・病室のドア

シワシワのお婆さんばかりの病室の入り口で思わずため息…

お給金を頂いている身で業務内容にわがままなんて言っちゃいけないとは思うのですが、こんな職場でも何かこう、心ときめくようなサプライズが欲しい…そんなアンニュイな回診の日ってありませんか? 何しろお年寄りたちはずいぶん前からお年寄りとして存在してたわけで、これからもしばらくは予定調和な存在…ある日突然干からびた皮膚をバリバリと割ってみずみずしい美女(ミス・ユニバースのイメージ)に変態すれば私の仕事にも潤いが出るし、高齢化社会など永遠にやってこないというのに…そんな事を思いながらも粛々と診療に勤しんでおります。

回診のときにイヤホンを両耳にさして真剣に何かに聞き入っているお婆さまがおられたので気になって尋ねてみました。Aさん、変なこと尋ねて申し訳ないんだけど、イヤホンで何を聞いておられるのか差し支えなければ教えてもらえませんか?

「あ?」 

Aさんたらお耳がすごく遠いので何度も耳元で同じことを尋ねますと、老人特有の緩慢な動作モード(ウイルススキャン中のパソコンみたい)でモッソリと布団を剥いでウォークマンをゆっくりと取り出して見せてくれました。最近のMP3プレーヤーと比べると懐かしい大きさです。

なぜかAさんは終始「フナキ」と苗字で呼び捨てにするのでテープを見せてもらうまで判らなかったのですが、やっぱり中身は「舟木一夫」の歌謡曲でした。まるで「尾崎はロック産業にくいものにされちまったのさ…」と苗字だけで呼びならわすようなイメージに重なります。

ボタンを押して中身のカセットを取り出してくれたのですが、「ガシャッ!」というテープが突発的に飛び出すさまと、それまでのAさんのスローモーな動きとのコントラストが強烈でちょっとビクッとのけ反ってしまいました。老人用のウォークマンにもう少しこう「ジワーッ」と、出てくる間にうたたねでもできるようなモデルがあっても良いのではないでしょうか…。

昔勤めていた病院で80歳を超えてジャニーズ大好きっ娘のお婆さん(テレビでテトラポッドにのぼって大はしゃぎの頃のaikoを見て国分君の彼女だとか言ってた)に出会ったので、こんな風に高齢の患者さんの病室での過ごし方をしつこくリサーチしているのですがあまり面白い人には出会えません。やはり若者には何をやっても勝てないのでしょうか?